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Day.37-2002.08.19 |
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朝7時にキャンプ地を出発し、向かった先は"マタランカ・プール・ネイチャー・パーク(Mataranka Pool Nature Park)"。いわば森の中にある"温泉"である。
私達3人とも、この日を心待ちにしていた。
オーストラリアで生活していて、恋しいものの1つ。それは"お風呂"だ。もちろん日々シャワーは浴びるのだけど、湯船につかる機会はほとんどないといってよい。勿論水不足に考慮して、というのも理由のひとつであると思われるが、お風呂の構造が、日本的な"入浴"に適さないのだ。
オーストラリアの家庭にあるバスルームの多くが、トイレとお風呂が一緒になっているタイプのものだ。中にはシャワーだけの場合もあるし、バスタブが付いていたとしても、日本のお風呂のように"浴槽"と"洗い場"が分かれていないので、私達日本人にとっては非常に使いにくいのだ。
それでも、冬の寒い日などはお湯につかりたいこともある。そんな時はどうするかというと、とりあえず浴槽に半分ほどお湯を溜める。そのお湯の中に体をなるべく沈めるのだが、イメージ的には半身浴のような感じだろうか。しばらく体を温めた後、お湯を落としながら髪を洗ったり体を洗ったりすることになる。せっかくならお湯をたっぷりと溜めれば良いようなものだが、1人使っただけのお湯を捨てると言うのは非常に心苦しくて、こんな中途半端な入浴になってしまうのだ。
更に、1人がたっぷりとお湯を使ってしまった後次の人がお風呂に入るだけのお湯が沸くまで、設置されているタンクの大きさにもよるが冬場であれば20分は優にかかる。シェアハウスでお風呂に入ろうとするには、家に誰もいない昼間を狙うか、シェアメイト達から了解を得る必要がある。少なくともお風呂を楽しんでいる間、他の人たちはトイレにも入れない事態になりかねないのだから。
そんなこんなで、お風呂にゆっくりとつかるなんて夢のまた夢のような当時、どんなものかはよくわからなくても"温泉に入れるらしい"というニュースは、特に猛とキヨ君を大いに喜ばせたのである。
昼間は強い日差しが照りつけるノーザンテリトリーの冬(乾季)だが、朝晩の冷え込みは厳しい。国立公園に到着したのは朝8時前。"朝湯"としゃれるにはこの上ないくらい最高の時間だが、何と言っても水着になるまでに勇気が必要なくらい、寒かった。
うっそうと木が茂り、まるでジャングルの中のような遊歩道を歩いていくと、川が見えた。数人の人が気持ち良さそうに泳いでいる。こんなに寒いのにあの笑顔。これは!・・・期待大じゃないの?
淡い期待を持ち始めた私達に"ちょっと待て"と心の声が。
"体温の違いを忘れないで"
"今までに何回痛い目にあったか、思い出して"
そうだった!私達アジア人は、西洋の人よりも体温が低かったんだった。これは今までのツアーを通して、かなり信憑性の高い俗説?(定説?)になりつつあった。
そして、“スパ”という言葉に釣られて飛び込み、“ぬるい・・・・。寒い・・・。”と後悔したり、“温水プール”と書いてある冷たいプールに飛び込んで震え上がった経験も、オーストラリア生活の中で数知れず。。
心の声にしっかり耳を傾けた私達、恐る恐る川の水に足をつけてみる。
・・・・・ほの温かい・・・。
少なくとも“あたたかい”と言える位の温度があった。私達は思い切って飛び込むことにした。
生ぬるいと言えば生ぬるいが、外気が冷たく冷えた体には温かく感じるのかもしれない。折良く力強い日差しにも恵まれ、体の中にじわーっと温かさが広がっていくのが気持ちいい。
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マタランカ・ネイチャー・プールは、ジャングルの中の秘湯!?といった趣だ。 |
この川から少し進んだところに、正に“公衆浴場”と呼ぶのにふさわしいような一画があった。
ここのお湯は川に比べ、少し温かいようだった。ここに来て私達は、遠慮なく温泉気分に浸ることにした。
温泉気分−。つまり、お湯の中にゆっくり体を沈め、手足を伸ばし、時々肩にお湯をかけたり、手のひらですくったお湯に顔をつけたり。。。これが私達ニホンジンが無意識にしてしまう、入浴スタイルである。
“意外にあったかいねー”
“不思議な感じだけど、温泉だー!”
すっかりくつろぎ、水着を着ているのが不自然にさえ思え始めた私達。
ところが、、
辺りをふと見回すと、動きが止まっているのは私達だけではないか!みんな泳いでいるのだ。
マタランカ・プール・ネイチャー・パークは、私達にとっては久々の温泉であり、他の国から来た人々にとっては、あくまでも“温水プール”であったようだ。
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川からは温泉につきものの湯気が出ていない。あまり温かくない証拠か。 |
森の中の温泉を後にした私達は、この後1日のほとんどをバスの中で過ごした。次のキャンプ地である“テナント・クリーク”まで、およそ600kmを移動するためだ。唯一長い時間バスを降りたのは、昼食を摂るために立ち寄った“ダリー・ウォーターズ(Daly Waters)”という町であった。
西部劇の舞台になりそうな、そしてどこか“忘れられた町”という佇まいのこの町は、人口が20人ほど(!)のとても小さな町だった。ここよりは随分大きな“ポート・ヘッドランド”という町でも感じたことだが、こういった小さな町は、通りがかりの旅人を惹き付ける力が強いような気がする。だからといって“ここで暮らしますか?”と問われても、暮らし続けることができるかどうかの自信があるとは、決して言えないのだけど。
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ダリー・ウォーターズ・パブ。この中に町の全てがある。 |
ダリー・ウォーターズには、町の中心と思しき所に小さなパブが一軒ある。パブには、町の人が必要とするもの全ての機能が備えられているという。つまり、食料や日用品の調達は勿論、銀行や郵便局、更に警察の用事もすべてこのパブで賄うことができるのだそうだ。
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パブに併設された給油所。たとえ“この先50km給油所なし”と言われなくても、
給油しなくちゃという気にさせてくれる。 |
パブの看板には、“1930年 設立”と書かれていた。1930年というと昭和5年にあたる。建物に何ともいえぬ味わいがあり、内部に展示してあるのか単に置かれているのか判断のつきにくい様々なものが、何とも言えぬ風情を漂わせているのも頷ける。私達は歴史と塵のたくさん詰まったこのパブを、何となく懐かしい想いで見学した。
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ちょっとした博物館風のパブ店内。
“展示”と“とりあえず置いた”との線引きが難しそうだ・・・。 |
夕方、ハイウェイをひた走るバスはある出来事に遭遇した。対向車線で一台のキャンピングカーがひっくり返っていたのだ。私達のガイドさん達は、すぐにバスを止め皆に一言了解を得た後、救急箱を携えて車の方へ駆けつけた。何かと不愉快にさせられる事の多かったガイドさんたちだが、この一件に関しては私達は心から感服したものである。
ノーザン・テリトリーに入ってから頻繁に目にするようになったのが、今回事故に遭っていた様なレンタルのキャンピングカーだ。全てが揃ったキャンピングカーが気軽に利用できるというのは良いが、慣れていない身にはやはり怖い気がする。ましてあんなに派手にひっくり返った車を見た後では・・。
夜7時頃テナント・クリークに到着し夕食を済ませた私達には、嬉しい出来事があった。なんと、あれだけ恋しく思っていたスワッグが登場したのだ。これはツアーにおける“オーストラリア体験”の一環であったらしく、私達はスワッグの使い方の説明を受けた。例のごとくテントのあるキャンプ場なので、希望する人スワッグの中で眠り、希望しない人は通常通りテントの中で眠った。
私達3人が喜び勇んでスワッグに潜り込んだのは言うまでもない。設備の整ったキャンプ場で、大きなテント群のそばで敢えてスワッグを使うという、何となく小さい頃に経験した“家の庭でキャンプ”を連想させるものだったが、私達はなるべく明かりから離れたところに陣取り、スワッグとの再会を満喫した。
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