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Day.43-2002.08.25 Day.42へもどる
 いよいよ“ノーザンテリトリーの最難関に挑む日”がやってきた。
 思えばパース発のツアーで噂に聞いて以来、“キングス・キャニオン”という言葉は私達(菜津子だけかもしれないが)にある種の恐怖感さえ与えていた。そして前日上空からその姿を目にしたことにより、“強大なものに挑む”のだという恐れとも楽しみとも取れるような気持ちが、ふつふつと湧いてきていた。


  靴やお水の確認を終え、私達は“無事踏破する”という悲壮な決意のもと(?)足を踏み出した。


 キングス・キャニオン(Kings Canyon)は、アリス・スプリングスの西南240kmほどの場所に位置する壮大な峡谷である。最高地点で270メートルという高さは、1800メートルとも言われるアメリカのグランド・キャニオンには比べると規模が小さいような気がするが、グランド・キャニオンを見たことのない私達にとって、キングス・キャニオンは十分すぎるほど“巨大”だった。


荒々しく切り立った崖


 乾ききった峡谷は、確かに歩き応えのあるものだった。地面もどちらかというとサラサラしているので、ゴム底の靴を履いていても滑りやすい。初めは上へ上へと歩いていくのだが、歩く位置が高くなっていくにつれて周りを取り巻く低い部分が目に付き、何となく吸い込まれそうな錯覚に陥る。高い所に立った時に感じる、あの危うい感覚である。

 みんなアールの指示に従って慎重に歩きながらも、そろりそろりと崖の上から顔を出して見たり、“ちょっと怖いけどかっこいい写真”を撮ることを目指したりしながら、何とか3時間半の道のりを歩いたのである。


腰掛けるだけで腰が引ける?


 駐車場に戻った私達。今回のツアーは比較的年齢層が高かった事もあり、みんなお疲れのご様子だった。一行は昼食をとるため、“キングス・キャニオン・リゾート(Kings Canyon Resort)”へ向かった。
 キングス・キャニオン・リゾートは、様々なタイプの宿泊施設やレストランなどが整えられた、正にリゾート地である。私達は、この一画で食事をした。・・・正確に言うと、“リゾートの一画にあるバーベキューエリアで、ランチを作って食べた”のである。

昼食の後片付け風景


 ここ何日も公園やバッパーのような場所ばかり見ていたので、ホテルの外とは言え、このリゾート地はとっても“まぶしく”感じた。大げさかもしれないけれど、歩いている人たちまで優雅に見える。


 ここだけに限らず、オーストラリアのアウトバックを旅する方法には、大きく分けて2通りある。1つは私達が経験しているような“地を這う”タイプ。例えば5日間のツアー中、写真に映る服が2種類しかなかったとしても、最低限の荷物を抱えできるだけ安い予算で多くの場所を見ようと言う人には、最適な方法だ。
 これに対し、“直行直帰型”とでも言う旅行方法は、予算には余裕があるけど時間には余裕がない、または、見たいものだけ見て、できるだけ快適に旅を楽しみたい、と言う人に適している。エアーズロックもバングル・バングルも付近に空港(飛行場)があるので、飛行機でひとっとびすることができるのだ。そして、この時間短縮型を選ぶ人の多くが、ホテルに宿泊することを選択する。
 
 
 どちらの方法で旅をしても、素晴らしい経験をし素晴らしい思い出を作ることに変わりはない。自分の状況に合わせて選択できるというのは、旅行を考えている人の背中を押してくれる、心強い存在だと思う。

大きな大きなキングス・キャニオン


 再びバスに乗った私達。キングス・キャニオンを歩いてランチを食べたばかり。当然のことながらバスの中には、体育の後の授業中にも似た、異様な静けさが漂っていた。そう、アールを除くほとんど全員が、静かに静かに眠っていたのだ。



 およそ2時間半後、思いっきり熟睡していた私達は、マイクを通して遠慮がちに起こすアールの声で目を覚ました。降り立った場所は、、、荒野のように見えた。
 半分寝ぼけ眼の一同、“ここはどこ?”とキョロキョロしてみるが、周囲には低い丘のようなものが見えるだけで特別なものはなさそうだ。

 戸惑う私達に、アールが言った。

 “僕達は今、クレーターの中にいるんだよ”


 これが。。。
 ゴスズ・ブラフ(Gosses Bluf)と呼ばれる直径5kmほどのクレーターの中に、私達は立っていた。
 

クレーターの内側より空を望む


 西オーストラリア州には、ウォルフ・クリーク・クレーター(Wolfe Creek Crater)と呼ばれる、世界的にも有名なクレーターが存在する。しかし、このノーザン・テリトリーにもクレーターがあるというのは初耳だった。
 何百万年も前のジュラ紀後期、隕石が落ちた衝撃によってこのクレーターが形成されたと言われているが、興味深いのは、隕石による接触ではなくその衝撃(風圧とでも言おうか)によって、このクレーターができたと言う点である。


 “クレーター”という言葉を聞くだけで、何となく宇宙とのつながりを感じてしまいとても神秘的な気持ちになってしまう私達。実際目にしたクレーターが単に“山に囲まれた場所”に見えなくもなく、“本当にこれがクレーター?なの”とまで思ってしまいそうな現実に、訳もなくほんの少しだけ落ち込むのであった。


正に“どこにでも”連れて行ってくれた、私達のバス


 最後に“シンプソン・ギャップ(Simpson's Gap)”という峡谷に立ち寄ってロック・ワラビーをみんなで探し、私達は3日ぶりにアリス・スプリングスに戻ってきた。そしてこのツアー終了をもって、、私達の“怒涛のツアー生活”は幕を下ろしたのであった。


 計画を立てた時点では、3人それぞれの希望に目をつぶった点も多かったことから、一体どんな日々になるのだろうかと不安も多かった。自分達の体力的な問題、“ここは絶対譲れない”というそれぞれの物差し、そして“英語だけのツアーでやっていけるだろうか?”という最大の疑問。

 しかし結果的には、この選択は大正解だったと思う。勿論、興味はあったのに見逃したものもあるし、文化の違う人々との行動で戸惑ったりストレスを感じたこともあった。でもその代わりに自分達が知りもしなかった場所を見ることができたり、“伝えなければわからない”というコミュニケーションの基本を再認識することもできた。また生活を共にすることで、教えてもらったりわかるようになった単語や言葉の使い方も数多い。

 オーストラリアの最も魅力的な地域を、最も良い時期に最短時間で回った私達。この勢いは止まらず、我がクイーンズランド州への旅を再会するのは早くも翌日からであった。

Day44へつづく


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