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Day.49-2002.08.31 Day.48へもどる
 この日。ケンカとサンドフライの襲撃によって延期されていた、スキューバ・ダイビングライセンスの取得コースを申し込みに出かけた。

 コースを受けるのは猛のみ。別にケンカしていたから、という訳ではない。念のため。

 菜津子の“ラウンド中にする事リスト”からスキューバ・ダイビングが外れていた理由は2つ。1つは今まで数々経験してきた通り、彼女の乗り物酔い。ボートの上で1日中過ごすなんて、想像しただけで気分が悪くなってしまうのだ。そしてもう一つの理由は、“耳抜き”ができないことだった。

 飛行機の着陸時など、気圧が急激に変化した時、耳にフタがされたような感覚になる。その“ふた”を取り除くためにする、あれである。

赤ちゃんや小さな子供は、耳抜きをすることが難しいので、離着陸時は飲み物を飲んだり飴などをなめると良いと、よく言われる。タイミングがずれてしまってそれが不可能であった場合など、ツーンとした痛みが耳を襲い、赤ちゃんは火がついたように泣き出すのだ。

目的地に到着するという正にその時、機内のあちこちで聞こえる泣き声は本当に痛々しく、更に横についている親御さんの気持ちを思うと、本当に辛く思う恒例のひとときである。

そしてそんな時、耳抜きができずつばを飲み込んでも回避できなかった大人は、ひたすら痛みに耐え続けるしかないのだが、、、その大人の中に常に数えられるのが菜津子であった。何度か挑戦はしてみたものの一向にできる気配もなく、既に諦めていたのである。

パースで訪れた、キングス・パークにて。キヨ君、何を思う... 15日目より


船酔いも嫌だし耳抜きもできない。免許を取りたいという気持ちもさほどないので、スキューバ・ダイビングは猛だけが参加すればよいだろうと思っていた菜津子であったが、ここ数日のケンカで、さすがに関係修復に向けた何かをしなければという気にもなっていた。


そして今、できることといえば、“ぜーーーったい行かない”と言っていたスキューバ・ダイビングのライセンスを一緒に取ることだと思えたのだ。

よく“思いつきで何でも口にする”と猛に叱られる菜津子は、この時もこの場の思いつきで、自分の考えを口走ってしまった。

そして、、、猛は意外にも喜んだのだ。


思い出深い、キンバリーツアーの写真。...25日目より


旅行代理店に着いた私達は、早速自分たちの問題を並べ、こんな私達でもコースを受けられるかを聞いてみた。すると幸運なことに、“グリーン島”という場所で実習を行うコースがあり、このコースではダイブの度に島に一度戻るので、船酔いの心配が少ないという事を聞いたのである。


料金は少し高めで、3日間コースで一人約300ドル(2002年当時、約22,000円)。

とりあえず一つ目の問題をクリアしこのコースに申し込んだ私達だが、もう一つの問題は、まだ解決していなかった。そう、“耳抜き”である。



ライセンス取得コースを受講するためには、健康診断書を提出する必要がある。早速その足で受けに行った健康診断で、菜津子は耳抜きができないことをドクターに伝えた。
彼女の耳をチェックしたドクターからは、“問題ない”とのお墨付き。つまり耳抜きができない理由は耳にあるわけではなかったのだ。


私達に最高の休日をくれた町“ポート。ヘッドランド”。21日目より


健康診断書を携えて旅行代理店に戻ると、猛は、スキューバ・ダイビングもできるグレートバリアリーフのクルーズを申し込むという。

実は猛は常々、グレートバリアリーフ、それもより美しい自然を保っているといわれている“アウターリーフ”に行きたいと願っていたのだ。しかし、乗り物酔いのひどい菜津子と一緒では、それも叶わないと諦めていた。



ところが事態は一転し、菜津子はスキューバ・ダイビングのライセンスを取るという。こうなると猛の夢も再び現実味を帯びてくる。幸い菜津子は、ダイビングに前向きになりつつある。ここで必要なのは、そう、例の“誘う言い方”だけなのだ。


長年彼の誘いにのり続けている菜津子は今回もあっさり、いつの間にかクルーズ申し込みを承諾していたのだった。


西オーストラリア、ブルームの日没時。23日目より


クルーズの日は9月4日。ライセンス取得コース修了の翌日であった。
つまり私達は、よりクルーズを楽しむために、必ずライセンスを取らなければいけなくなったのだ。

この日、正確には健康診断で“耳の機能に異常なし”の診断が下されて以来、猛は“耳抜きの鬼コーチ”と化した。基本姿勢は“気合が足りなーい!”と叱咤激励することだったが、その他にもあらゆる手を講じて、菜津子に耳抜きをマスターさせるべく、大奮闘を始めたのだった。


一つのことをこんなに集中して練習するのは、中学生の時に流行った“ペン回し”以来だと、鼻をつまんで“フンッ!”と空気を吐き出しながら、菜津子はテスト中に教室のあちこちで聞こえた、鉛筆が床に落ちる音、そしてその音がする方向へツカツと歩み寄っていく先生の姿を思い出していた。
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