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Day.12-2002.07.25 Day.11 へもどる
 朝目が覚めた時、窓の外はまだ暗かった。時計を見ると、既に7時。やっぱり西は日が昇るのが東より遅いのだと、改めて実感。
 昨夜猛は、熱が下がる時の苦労を、列車の座席で体験していた。夜中、彼は体中にびっしょりと汗をかいた。体を完全に横にできない状態で、である。さぞつらかっただろう。

どこで見る太陽も、実は同じものなんて不思議なくらい、夜明けの表情は様々だ

 会社員時代、友人数人とハワイに行った時のことを思い出した。風邪をひいていた友人の一人が、飛行機の中で風邪を悪化させてしまった。その時、スチュワーデスさんがすぐさま彼の容態に気付き、特別に横たわれるスペースを用意し、しかも付き添っていてくれたのだ。翌朝、昨日の風邪は演技じゃないかと思う位、彼はとても晴れやかな顔で、“やっぱハワイの空は青いね〜!”と言っていたっけ。

 眠気と空腹にはどうしても勝てない妻が連れという哀れな猛は、どうやらこの苦難を一人で乗り切ったらしい。汗をかいたおかげで、随分具合が良くなったようだ。朝食にバナナを食べるくらいの食欲はあり、せっかくなので、最後に食堂車で朝食を食べることにした。

 アデレードでたくさん買ったバナナは、朝食が終わってもまだ数本残っていた。残ったバナナをテーブルに置いたまま、私達は、パースに向かって少しずつ景色が変化していく、窓の外を眺めていた。
 とその時、乗務員の男性が2人、袋を携えて食堂車に入ってきた。そして私達のテーブルにツカツカ・・・テーブルの上のバナナを袋にどさっ。保正家、唖然。。。“エクスキューズ・ミー?
 おじさん達が、ちょっとお怒り気味の顔で私達に言った。“西オーストラリアに果物を持って入っちゃいけないよ!”
 あ、そうだった。すっかり忘れていた。
 
車窓から、虹を発見!

 オーストラリアにはコアラやカンガルーを始めとした大陸固有の動植物が生息している。それらの生態系を守るため、オーストラリア入国の際に大変厳しい検疫が行なわれるのは、有名な話だ。そしてそのオーストラリアの中でも、WA(西オーストラリア州)は特に厳しい。オーストラリア国内の通信販売などでも、例えば植物などは“西オーストラリア州の住所へは発送できません”と、厳しく制限している。

 食べてあげられなかったバナナ。せめて南オーストラリア州で無事消費されますように、と祈りをこめて私達は食堂車を後にした。

これが、インディアン・パシフィックの“横顔”

 午前9時30分、列車はパースに到着した。ホームに下りて初めて、インディアン・パシフィックの“顔”を撮影していなかったことに気付く。猛と荷物をそこに置いて、菜津子は列車の最前車両に向かって猛ダッシュ!!
 幼少の頃からクラスで1番走るのが遅かった菜津子。歳を重ねてもそこは変わらず、保正家の旅アルバムには、インディアン・パシフィック号の“横顔”だけが記録されることとなった。


 バスや列車でオーストラリアを旅行する時、あまり宿を探す心配は必要ないのだと、この時知った。列車から降りると、目の前にはバッパーの看板を掲げた人、人、人。予約したお客さんを迎えに来ているのが目的だが、同時に勧誘も行なわれている。
 
 どこから見ても全身で“ラウンド中です”と宣伝しているような私達にも、何組かのお声がかかった。私達は友人の勧めるバッパーに既に予約を入れてあったので、誘われる度に“もう決めてます”と断りながら迎えの人を目で探していた。
 しかし、いない。こんなにたくさん人がいるのに、いない。少し心配し始めた私達の前に、かなり怪しげな風体をしたおじさんが近づいてきた。

 “他のバッパーを予約してます”って言っているのに、彼はひるまない。ニヤッと不敵な笑いを浮かべて“どこ?”と聞いてきた。私達がバッパーの名前を言うと、ふんっと軽く笑い、“来ないかもよ”と言った後で私達に自分の名刺を差し出した。“移りたくなったら、いつでもおいで。うちは良いとこだよ〜”

これが、インディアン・パシフィックの“胴体”

 何だか変な人。と思った。まあ、ここは日本人お得意の愛想笑いで切り抜けようと、私達は実行した。そして待つこと更に5分程。ようやく迎えのお姉さんが到着し、私達はバッパーに連れて行ってもらった。

 なぜ私達がこのバッパーを選んだのか。全ては友人の情報だった。彼いわく、このバッパーは“できたばかりでものすごくきれいだし、しかも安い!!”らしい。
 建物に入ってまず、“?”と思った。壁はきれいに塗ってるけど、ここってあまり新しくないよね?床も汚れてるし、あちこち散らかってるし、何だか期待してたのと違う・・・? そして更に、1泊19ドルと、他のバッパーより宿泊料金が高かった!
 
 パースにしばらく滞在することは決まっていたので、たとえ1ドルでもその差は侮れない。しかもここに19ドルも払うのは、あまりにももったいない。保正家の決断は早かった。

 荷物を軽く整理した後、まず向かったのは“あの”おじさんのバッパーだった。なぜなら、とりあえず場所がわかるのはそこだけだったから。
 おそるおそる建物に入った私達を、おじさんはまたもやめがねの奥から“ニヤッ”と笑って迎えた。“ん〜、ちょっと悔しい!”と思いながらも、おじさんに“部屋を見せてもらえる?”と頼む。満面に“ほ〜らねっ”を漂わせるおじさんは、早速私達を部屋に案内してくれた。・・・意外にきれいだ!

“世界一美しい街”と言われる西オーストラリアの州都、パース

 保正家のラウンドの結果、“良いバッパー”と“良くないバッパー”を分ける基準は2つ。ずばりキッチンとバスルームである。ぶっちゃけた話、部屋やベッドの寝心地はどうでも良い。かび臭かったり、ゴキブリが添い寝してなければ、の話だけど。
 
 キッチンは、最低でも1日2回使う。とっても汚れていて使う気にならないキッチン、これは問題外。そして、使えるお鍋がなかったり、火力(電力)の弱いキッチンも、ちょっといただけない。とにかく、広くて冷蔵庫の物が安全で、必要なものが揃っていて、ご飯が作れるキッチン。ご飯が普段にもまして楽しみになるラウンド中は、これがとっても大事なのだ。

 そしてバスルーム。私達が滞在したほぼ全てのバッパーでは、共用(男女別)のシャワーのみだ。この場合、キッチンと違って“きれいか汚いか”はあまり問題にならない。重要なのは、“お湯が出るか”“水圧はあるか”である。

 私達の知る限り、オーストラリアのお湯は、電気で沸かされる。各家庭にはお湯のタンクがあって、家庭内で使用されるお湯は、全てそのタンクから供給される。つまり、大きな給湯ポットのようなものだ。タンクの容量は様々で、2〜3人の家庭ではだいたい40リットル位である。ここで問題。例えば3人の住人が続けて順番にシャワーを浴びようとすると、間違いなく3人目の人はお水で我慢する羽目になる。これがシェアハウス、いや家族の中でもしばし争いの元となる“お湯問題”である。1年中水不足と言うオーストラリアの事情も重なり、ホームステイ先で“シャワーは1日5分ね”と言われ、初日からブルーな気分に陥る留学生は結構多い。

 バッパーの場合、多くの人がお金を払って滞在するのだから、タンクは大きく、お湯は問題なく供給されるはず、である。しかし、自分の常識を当てはめられないのがオーストラリア。シャワーの蛇口をひねってもお水しか出ない、ということが多々ある。そしてお湯がたとえ出たにしても、チョロチョロと“ししおどし”並みの勢いしかないことは、日常茶飯事である。


 見学の結果、どうやらこのバッパーは基準をクリアしているように見えた。翌日からの3泊をこのバッパーで過ごすことを決め、気持ちがすっきりした私達は、その勢いで次の予定を決めることにした。

 オーストラリア各地には日系の旅行代理店が数社あり、ラウンドの相談に気軽に応じてくれる。ゴールドコーストで全ての日程を決め、様々なツアーの申し込みを済ませることも可能だが、現地の情報に詳しい人に聞いてからの方が良い、との判断で、パースから先の予定は白紙にしてあった。

繁華街には、近代的なビルとヨーロッパの遊び心が同居している

 私達が向かったのは、例の会員になっている旅行代理店のパース支店。エアーズロックまで行きたいと話し、考えていたバスパスについて尋ねてみると、返ってきた反応は意外にも否定的だった。

 バスパスは、購入した距離数ならどこでも乗降車ができるという便利なもの。団体行動があまり得意といえない私達は、バスを乗り継ぎ、立ち寄りたい所で降りながら旅を続けるという計画を持っていた。しかし、代理店の人が教えてくれたところ、所々でバスを待つためだけに宿泊しなければいけないという無駄が生じる上、自分達だけで見て回ると“見るべきもの”を見つけられないことも多く、効率が悪いというのだ。確かに、それは言えてる、と思った。せっかく時間とお金をつかって旅行するのだから、多少高くなるにしても、密度の濃い旅にした方が良い。

 2時間あまり相談を重ねた結果、パースからエアーズロックまで、計4つのツアーに参加するというプランが確定的になった。問題となったのは、一人3,200ドルという費用と“ブッシュキャンプ”だった。車1台買えてしまう位のお金を、たった20日間位につぎ込んでいいのか。。。これは保正家の財政担当、猛が考えることだった。

 菜津子の頭にあったのはただ1つ、“ブッシュキャンプ”である。ブッシュキャンプとは要するに野宿のようなもので、つまりお風呂はおろか、トイレもない状態でのキャンプだ。幼少のころならいざ知らず、30歳を過ぎて“草むらのかげで”というのは、ちょっと考えられなかった。考えたくもなかった。しかもお金を払って・・・。

 パースからはキヨ君と3人。ツアーについて彼とも相談する必要があった。“キヨ、高すぎるっていうかな?”“キヨ、ブッシュキャンプはいやがるよね?”・・・全く別々の悩みを抱えながら、保正家はキヨ君のパース到着を待つこととなった。

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