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Day.26-2002.08.08 |
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足元が揺さぶられた。そして聞こえたベヴンの声。“おはよう!!”朝5時30分。空はまだ薄暗い。あまりに意外な起こし方に、眠気も吹き飛び起き上がった。ふとベヴンを探すと、彼はスワッグを1つずつゴロンゴロンと足元からゆすり、みんなを起こしている。みんな、何だかみの虫になったみたいだ。頭まですっぽりスワッグにもぐっていた人も、ベヴンの揺さぶりでにょきにょき這い出してきている。
顔を洗いに水道に向かう途中、目の端が日常の動きとは違う空気を捉え、一瞬ドキッとした。そぉーっと“空気”の素を探すと。。。一人の女性が“ヨガ風”なストレッチをしていた。彼女いわく“ヨーガ”らしいが、ヨガをよく知らない私達から見ても、ちょっと微妙といえば微妙な動きではある。
オーストラリアには、以前に書いたような“間違った文化”があちこちに存在している。間違ったとは言わなくても、誤解というか不思議というか。。。
ある日、オーストラリア人のクラスメートが“私のお母さんは、東洋の思想や宗教を信仰しているのよ”と言った。私達は驚き、彼女のお母さんがどんな生活をしているのかと、興味深く次の言葉を待った。そして、彼女のお母さんが“ベッドルームに金色の仏像を飾り、お香を焚いている”事を知ったのだった。確かに、、、そうかもしれない、けど。。。
とはいえ、私達が日本で外国の文化として理解したり真似したりしているものも、実は全く違うこともあるのかもしれない。
何はともあれ、この先の7日間、彼女の“朝ヨガ”は毎日続けられた。勿論、彼女の寝場所は日々変わるわけで、早い日には暗闇の中で不意打ちにあったりもし、私達は毎日驚かされることになるのだった。
朝ごはんは、キャンプツアーお馴染みのメニューだった。これまで、ずっと疑問に思っていたが、やっぱりここでも同じ光景だったこと-イングランドからの参加者は、みんなまずシリアルを食べ、その後パンに移行する。
大したことではないのかもしれないが、何故どちらか、だけではなく両方、そしてなぜその順番なのだろう?いまだに疑問である。
出発準備を整えたツアー一行は、“レナード渓谷(Lennard Gorge)”へ向かった。
進めど進めど、相変わらず乾いた一本道が続く。西オーストラリアはこの時期乾季に当たる。この時期だからこそ、車で立ち入れる地域は多く、1本の木でも途中から色が変わっているなど、雨季の水位を伝える跡や“洪水の恐れあり”という看板が目に付く。しかし、雨季のこの地が想像できないほど、辺り一面に茶色く埃っぽい風景が広がっていた。
突然、ベヴンがバスを路肩に寄せ停車した。見たところ、トイレに行きたそうな人もいないようだ。休憩?それとも車のトラブル?と心配する私達に、ベヴンが説明を始めた。
“今夜使う薪を、みんなで集めよう!”
そう、キャンプに欠かせないもの。火と水である。水はタンクに溜められてあり、お料理および食器洗い用のみに、大事に大事に使うよう指示されていた。そして、火を焚くためには薪が必要。キャンプ地にも薪になる木はあるかもしれないが、なかったら大変だ。先述のように今は乾季。薪にうってつけの木が、あちこちに散らばっている。
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ごつごつとした岩場を下っていく |
バスを降りた私達。良さそうな木を求め、方々に歩き回った。あたりは平地で多少遠くに行ってもバスを見失うことはないので、みんな結構思い切りよく飛び出して行っている。薪は次々に集められ、その中からベヴンが選別してバスの屋根に積んでいく。薪は地面に山積みされていくのだが、ベヴンの選別は厳しくなかなか優良な薪が揃わないらしい。とうとうベヴンが口を開いた。“太目だけど大きすぎない、しっかり乾いた木を探して!”
選定基準はかなり厳しかったが、薪集めはとても楽しかった。この日以降薪集めは日課となり、私達も自然と車窓から“良い薪のあるポイント”を探す癖がついた。
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キヨ君、冷たい水に飛び込む! |
レナード渓谷に着いた一行。岩場を伝って水辺に向かう。ベヴンは“ちょっと歩く”と言っていたけど、道が平らなところは1列にならないと歩けないし、水辺に下りるのには両手も必要だった。今後、ベヴンの“ちょっと”には注意が必要だ。
ここで自由時間となった。みんなそれぞれ、休憩したり日光浴をしたり、泳いだり。。。本を読む人もいる。快晴の渓谷。これはもう泳ぐしかない。私達3人は、早速水着になって足を水につけた。。。。冷たい!!!外気はとても暑いのだが、ちょうど水面が陰になる時間帯だった。水はびっくりするほど冷たい。この水温では、みんな尻込みするだろうと思いきや、みんな気持ち良さそうに泳いでいる・・・。
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岩場に張り付くおサル?いえ猛とキヨ君 |
そうだ忘れていた。彼らは体温が私達よりも高かったのだ。体温の違いってすごいと、改めて思った。
レナード渓谷を後にした私達は、次なる渓谷へ向かった。その名は“ベル渓谷(Bell
Gorge)”。ここでは先ほどよりも時間を多くとってみんなで水遊び。この渓谷は、上流から水が階段状の滝を通って流れている。
泳ぎ始めた私達を、ベヴンがこの滝に座って監視していた。恐らく平均年齢25歳前後、みんな大人なはずなのだが、なぜか必要以上にはしゃいでしまう人も中に入る。キヨ君がひそかに“博士”と名づけた男性は、その容貌に似合わずやんちゃをしてしまい、ベヴンに厳しく叱られていた。
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たまには記念撮影を。あれ?モデルはどっち?の巻 |
夕方、とうとう“その時”がやって来た。何もない広場にバスは止まり、私達はここが今夜のキャンプ地なのだと知る。何となく緊張気味の一行は、ベヴンから必須事項であるトイレについての説明を受ける。見せられたのはスコップ1本とトイレットペーパー。16人もいるのに、何故1本か?つまり、このスコップこそが“お出かけ中”つまり“使用中”のサインとなりえるからなのだ。
バーベキューの夕食を終えた私達は、火を囲んで静かな夜を過ごした。しかし、何となくみんなの視線は落ち着かない。キャンプファイヤーから遠く離れたバスの車体に、例のセットは立てかけられてある。その方向で懐中電灯の明かりが動くたびに、何となく、しなくても良い確認作業をしてしまうのだ。
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階段状に水が落ちるベル渓谷 |
スワッグの寝床に入る前、私達は順番にトイレに行った。どちらかというと少し不安な気持ちで向かったのだが、そんな気持ちは3秒で吹き飛んでしまった。
小さな懐中電灯の明かりだけを手に、真っ暗な草地に足を踏み出す。キャンプファイヤーの火からも遠くなった時、自分が満天の星に囲まれていることに気付くのだ。ゴールドコーストで見た星空も、日本で見る星空に比べれば随分澄んでいて美しいと思っていたが、キンバリーで見た星空には、迫力があった。思わず懐中電灯を消し、もっともっと星空に囲まれてみる。普段“上”にあると思っていた星は、目の高さにもあること、地球は丸いのだと、改めて実感した瞬間だった。
ブッシュキャンプ最大の難関であった“ブッシュトイレ”は、初日から私達3人をとりこにした。
前日と同じように川の字になって寝転んだ3人。星空を見上げる。美しい。 そして、ふと気付いた。“あの部分だけ、何だか曇ってるよね”。これが、日本で見たことのなかった“天の川”だった。
天の川のことを、英語では“ミルキーウェイ(the Milky Way)”という。ミルクをこぼしたように見えるから、という説明は聞いたことがあったが“百聞は一見にしかず”である。
猛が突然言った。“昨日、流れ星がたくさん見えた”え?流れ星?キヨ君と菜津子、まさかという反応。しかし猛は言った。“結構見えるんよ。これが”
この日から、スワッグにもぐりこんだ私達は流れ星探しに躍起となった。そしてこれが意外に難しいことに気付く。“流れ星はあちこちで見えた”と猛は言うが、見上げる広い空でその動きを目に止めるのは大変だ。これも“エポック社のカセットビジョンのきこりのよさく”に始まる彼のゲーム人生の賜物か。。。もしくは、やんちゃな時代にお世話になった“クランキーコンドル”で鍛えた動体視力のおかげか。。。
ブッシュキャンプ初日をどうにか乗り越えた安心感と、星空に抱かれるような心地よさから、流れ星が落ちるよりも早く、誰かの寝息が聞こえていた。
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