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Day.28-2002.08.10 Day.27 へもどる
 毎朝、起き上がって気がつくこと。スワッグの表面に霜が降りている。霜を見るたび、“守られてる!”と感動してしまうのだ。いくら日中は暑いといえ、夜には5度以下まで気温が下がる。スワッグの中は寝袋、その中は重ね着に靴下と、私達も完全防備するのだが、それにしてもスワッグの保温力はすごいのだ。靴下を履かなかった初日以外、寒さで目が覚めるということはなかった。

 出発前、スワッグを丸めてひもでくくりバスの屋根に積み上げるのが、毎日の日課だった。各自丸めたスワッグを一ヶ所に集めておき、出発前にベヴンが屋根の上に積み上げるのだが、この際、小さくしっかりと丸められていないスワッグは、ベヴンから投げ返されてしまう。寝袋と違い、無理やり押し込んで袋に収まるというものではないので、投げ返されたスワッグは再度広げてきっちりとベヴンの求める“nice and tight(ぎゅっときっちり)”に丸め直さなければいけない。毎朝、ちょっと緊張する時間だった。

荷物をつむベヴン


 この日、なんとベヴンの焼いてくれたホットケーキを朝ごはんに食べた私達。ベヴンの通常の行動はもちろん、用意してくれるメニューの豊富さに、私達は感動し頭が下がる思いだった。

 朝食後向かったのは“エマ渓谷(Emma Gorge)”。バスの中から外を見ると、今までの“ゴージ”とはちょっと違う。この雰囲気は、まるで高原のリゾート地に迷い込んだかのようだ。敷地内にはコテージのような建物が点在して、テラスでくつろいでいる人もいる。私達の乗った、土ぼこりにまみれたバスは少し場違いな感じで、自然と人々の視線を集めた。

道の途中にあった川(バスの後ろ)を渡りきった


 リゾート色満載の外見に反し、歩き始めた道はかなり無愛想だった。滝のある目的地まで1.6kmを歩いたのだが、ほとんどがゴツゴツとした石の上を伝って歩かなければいけない。森林浴を期待した私達はちょっと不意をつかれ、最後にはみんな下を向き、無言で歩く始末だった。

 滝に到着すると、ひんやりとした空気が私達を包んだ。猛の大好きな“マイナスイオン”が一杯だ。さっそくいつものように水着になり、水に飛び込もうとしたが、

 冷たい!!!

 今まで冷たいと思ってきた水とは比べ物にならない!!!コーラルベイの海水も冷たかったが、それとも違う冷たさだ。今日の夜はブッシュキャンプじゃないしな、どうしようかな? “遊泳はお風呂の代わりではありません”という声が聞こえてきそうだが、だんだん“水=お風呂”の構図が出来上がりつつある私達。

 そんな私達の“遊泳意欲”をかきたてたもの、、、それは滝つぼだった。

エマ渓谷の滝。高低差は20mほどか


 日本でも滝は色々見てきたが、滝つぼに入るという経験はそうそうできない。これは、“滝つぼ”と呼ぶには少し迫力にかけるかもしれないが、それでもみんな“滝が落ちてくるポイント”に行きたかった。
 最初はジンジンと感じていた冷たさも、慣れるに従って気持ち良いくらいのひんやり加減になってきた。私達は滝を真下から見上げながら泳ぎ、きれいな水と滝の高さを存分に楽しんだ。

 

 災難はこの後すぐやって来た。どうやら私達は、調子に乗って、あまりにも長い時間冷水につかりすぎたらしい。水から上がって数分後、かつて経験したことのない寒さが私達を襲った。通常は、水から上がって体を拭き服を着ると、何とも言えない心地よい暖かさが全身を包むものだ。しかしこの時、服を着た私達は寒さで文字通りガタガタと震えていたのだ。しかもこの震えは収まるどころかひどくなる一方で、私達はなす術を全く知らず数十分の間ひたすら震えていたのだった。

 “15〜30分に1回、水から上がって休憩しましょう”小学校で教わったことは正しい。私達は深く反省した。



 エマ渓谷を後にした私達は、ウィンダム(Wyndham)という西オーストラリア州最北にある小さな町に向かった。ここには“ファイブ・リバー・ルックアウト(Five Rivers Lookout)”という展望台があり、文字通り5本の河を見渡すことができる。

五本の河が見事に見渡せる“ファイブリバー・ルックアウト”


 この町で、ベヴンが私達に与えた唯一の居心地悪い時間。それはこの後向かった“アボリジナル・パーク”で起こった。これまで、どこに行くにも常に一緒にいたベヴン。その彼が、歯切れ悪く私達に伝えた。“給油と車の点検をしてくるから、ここで見学しながら待ってて”明らかに不自然だ。

 他に選択肢のない一行はバスを降り、パークに足を踏み入れた。広場の中心にアボリジニの人の像が立っていた。そして何人かのアボリジニの人もいた。アボリジナル・パークと名前は付いているものの、他には見るものもない。時間を持て余し、ただしゃがむばかりの私達に、アボリジニの人が近づいてきた。そして、彼らが私達に物を売ろうとしていることを知った。そしてなぜベヴンが不自然な形で姿を消したのかも。

“居心地の悪かった”アボリジナル・パークにそびえたつ像


 今考えると、あんな状況でなければもっと興味を持ち、積極的に話を聞いたかもしれない。でも見たことがなかったベヴンの戸惑った表情、そして“商品を売る”というよりも“お金をもらいたい”という気持ちが前面に見える人とは、どうしても話をする気になれず、私達は声をかけられないよう背を向けて、ベヴンのバスを待ち続けた。
 後にも先にも、ベヴンがツアーから離れたことはなかっただけに、この経験は妙に重みを持って私達の記憶に刻まれてしまった。


 この日の宿泊地は、なんと新築のキャンプサイト。“パリー・ファーム(Parry Farm)”という名前まで付いている。トイレ・シャワーはもちろん、コインランドリーまで完備されていたのには驚いた。

いくつになっても火をおこすのは楽しいもの


 荷物を下ろし、“寝床”を確保した私達が次にしたこと。それは洗濯だった。キャンプ中の洗濯は半ばあきらめていたし、シャワーがない日々で“キャンプ地に到着→食事→スワッグで就寝→起床→出発”の繰り返しだったので、結構みんな毎日同じ格好をしていた。しかし一旦洗濯機を目にしてしまうと、自然と洗濯願望が沸いてくるというものだ。

落し物?いえいえ立派な寝床の確保です

 同じ事を考えた人は多く、コインランドリーはすぐに一杯になった。久しぶりの便利な設備に、みんな少しホッとした顔をしている。

 ベヴンはこの日、食事準備を早々に始めていた。私達参加者には“手伝わなくていいから自由に過ごして”と言い、作り始めていたものは、なんと焚き火で作ったローストビーフとマッシュポテト、そしてスパゲティだった。一同、またまた感動である。


これが“ベヴン特製、ローストビーフ”絶品でした


 実に4日ぶりのシャワー、ベヴンの心のこもったおいしい食事。これがまさか、翌日襲い掛かる悲劇への“ごほうび前払い”だとも気付かず、菜津子はただただ楽しく夜を過ごした。

 
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